材料の名前(日本語・外国語)
和名はひよこ豆(雛豆)。
そのほか「栗豆(くり豆)」「エジプト豆」「チャナ豆」などの別名でも呼ばれています。学名は Cicer arietinum L.で、マメ科マメ亜科ヒヨコマメ属に分類される一年生の自殖作物です。
各国での呼び名は以下のとおりです。英語では Chickpea(チックピー)、スペイン語では Garbanzo(ガルバンソ)、フランス語では Pois chiche(ポワ・シシュ)、イタリア語では Cece(チェーチェ)、ヒンディー語では Chana(チャナ)、アラビア語では Hummus(フムス)、トルコ語では Nohut(ノフト)、ポルトガル語では Grão-de-bico(グラォン・ジ・ビコ)と呼ばれています。
日本では、メキシコからの輸入が多かった経緯から、スペイン語由来の「ガルバンゾー」「ガルバンゾ」という呼称が広く普及しています。学名の属名 Cicer は古代ローマ時代から使われていたラテン語で「ひよこ豆」を意味し、種小名 arietinum は「雄羊のような」という意味で、豆の形を羊の頭に見立てたものです。なお、古代ローマの政治家・哲学者キケロ(Cicero)の名もこのラテン語 cicer に由来するとされ、ひよこ豆が古代ローマ社会にいかに馴染み深い存在であったかがうかがえます。
特徴
ひよこ豆の最大の特徴は、その独特の丸みを帯びた形状です。豆粒の臍(へそ)の近くに鳥のくちばしのような突起があり、まるでひよこが座っているような愛らしい姿をしています。英名「Chickpea」も一般にはこのひよこに似た形に由来すると認識されていますが、本来はラテン語の cicer がフランス語を経由して英語に転訛したもので、「ひよこに似ているから」という説明は後付けの民間語源であるといわれています。
ひよこ豆には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは豆粒の大きさが10〜13mm程度で表皮が薄い橙色をした大粒種(カブリ種/Kabuli)、もう一つは7〜10mm程度でやや濃い褐色をした小粒種(デシ種/Desi)です。日本で流通しているものはほとんどがカブリ種で、やや大きめの丸い粒が特徴的です。一方、インドをはじめとする南アジアではデシ種が主流であり、挽き割り(ダール)や粉末(ベサン粉)に加工して日常的に使われています。
食感は栗に似た「ホクホク感」が際立ち、日本では「栗豆」とも呼ばれるほどです。味わいはクセが少なく、ほのかな甘みとナッツのような風味があり、さまざまな料理やお菓子に幅広く使える汎用性の高い食材です。
栄養面では、乾燥ひよこ豆100gあたりたんぱく質が約19〜20g、食物繊維が約17gと非常に豊富です。ビタミンB群、とりわけ葉酸の含有量が突出しており(100gあたり約557µg)、鉄分(約6.2mg)、亜鉛(約3.4mg)、マグネシウム(約115mg)、カリウム(約875mg)なども多く含まれています。低脂質で高たんぱくなことから、近年はヴィーガンやベジタリアンの方々の貴重なたんぱく源としても世界的に注目を集めています。
用途(お菓子を中心に)
ひよこ豆は、料理のみならず製菓の世界でも幅広い活躍を見せる素材です。とくにお菓子づくりにおいては、「豆そのもの」と「ひよこ豆粉(ベサン粉)」の2つの形態で使用されます。
まず、ひよこ豆粉(ベサン粉)を使った伝統菓子として世界的に有名なのが、インドのベサン・ラドゥ(Besan Laddu)です。ベサン粉をギー(インド特有の澄ましバター)でじっくり炒め、砂糖とカルダモンなどのスパイスを加えて丸く成形したお団子状のスイーツで、ディワリ(光の祭り)をはじめとするインドの祝祭には欠かせない存在です。口の中でほろりと崩れる食感と、炒ったひよこ豆粉の香ばしさ、ギーのコクが絶妙に調和した味わいは、一度食べると忘れられないものがあります。
イランの伝統菓子ナーネ・ノホドチ(Nan-e Nokhodchi)も、ひよこ豆粉を主原料とした代表的なお菓子です。ひよこ豆粉に油脂、砂糖、カルダモンなどを混ぜて小花やクローバーのような愛らしい形に成形して焼き上げるクッキーで、ほろほろと崩れる食感はスペインのポルボロンにも似ています。イランの正月「ノウルーズ」のお祝いに欠かせないお菓子として親しまれています。
イタリア、とくにリグーリア地方やトスカーナ地方では、ひよこ豆粉を使った焼き菓子ファリナータ(Farinata)やカスタニャッチョ(Castagnaccio)の変形レシピが古くから伝えられています。また、南イタリアではひよこ豆粉を使ったプディングも伝統的に作られています。
近年では、グルテンフリーやヴィーガンスイーツへの関心の高まりを背景に、ひよこ豆はお菓子づくりの新しい素材として世界的に脚光を浴びています。茹でたひよこ豆をペースト状にしてブラウニーやマフィンの生地に練り込む「ひよこ豆ブラウニー」「ひよこ豆マフィン」は、SNSを中心に人気が広がりました。小麦粉を一切使わず、ひよこ豆のペーストとカカオパウダー、メープルシロップなどだけで作るこれらのお菓子は、しっとりとした食感と自然な甘みが特徴で、グルテンフリーでありながら満足感のある仕上がりになります。
さらに、ひよこ豆の茹で汁であるアクアファバ(Aquafaba)が卵白の代用品として使えることが発見されて以降、ヴィーガン製菓の世界に革命が起きました。アクアファバは泡立てるとメレンゲのような状態になるため、マカロン、ムース、パブロバなどの卵白を使った伝統的なお菓子を卵なしで再現することが可能になったのです。
ポルトガルでは、茹でたひよこ豆を使ったタルトが家庭のお菓子として親しまれています。ひよこ豆、卵、砂糖、シナモンというシンプルな材料で作られる素朴な味わいのタルトです。
お菓子以外の用途としては、中東料理のフムス(ひよこ豆のディップ)やファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)、インドのチャナ・マサラ(ひよこ豆のスパイス煮込み)、サラダやスープの具材などが広く知られています。
主な原産国・生産国
ひよこ豆の原産地は**西南アジア(現在のトルコ南東部からシリア、イランにかけての地域)**と推定されています。考古学的な最古の記録は約7500年前、アナトリア半島(現トルコ領)のハジュラルで出土したもので、さらにシリアのテル・エル・ケルフでは紀元前約1万年前の種子の痕跡も発見されています。
現在の主要生産国としては、世界最大の生産国がインドで、世界全体の生産量の約7割を占めています。FAOSTATの2024年データによると、世界のひよこ豆の年間生産量は約1,680万トンで、そのうち約74%がアジアで生産されています。インドに次いで、オーストラリア、トルコ、パキスタン、ミャンマー、エチオピア、ロシアなどが主要生産国として名を連ねています。
日本国内ではひよこ豆の商業的な栽培はほとんど行われておらず、国内で流通するひよこ豆はメキシコ、アメリカ、カナダなどからの輸入品が大半を占めています。
選び方とポイント
ひよこ豆は「乾燥豆」「水煮缶詰・レトルトパウチ」「粉末(ベサン粉/ひよこ豆粉)」の3つの形態で入手でき、用途や手軽さに応じて使い分けることが大切です。
乾燥豆を選ぶ場合は、粒がふっくらと丸みを帯びていて、大きさが揃っているものが良品です。表面にツヤがあり、色が均一で明るいクリーム色(カブリ種の場合)をしているものを選びましょう。シワが多いもの、割れや欠けが目立つもの、変色しているものは鮮度が落ちている可能性があります。また、虫食いの穴がないかも確認してください。乾燥豆は保存がきく利点がありますが、古くなると戻りにくく、煮ても硬さが残ることがあるため、購入時には賞味期限に十分注意しましょう。使用する際は一晩(8〜12時間程度)たっぷりの水に浸してから茹でる必要があります。
水煮缶詰・レトルトパウチを選ぶ場合は、戻す手間が不要で手軽に使えるため、初めての方やお菓子づくりで手軽にひよこ豆を取り入れたい方におすすめです。有機(オーガニック)認証のあるもの、食塩無添加のものなどが流通しており、お菓子づくりには食塩無添加タイプが適しています。缶詰の茹で汁(アクアファバ)もお菓子に活用できるので、捨てずにとっておくとよいでしょう。
ひよこ豆粉(ベサン粉)を選ぶ場合は、色味が鮮やかな黄色で、ダマのないサラサラとした状態のものが良品です。製菓用にはできるだけ粒子の細かいものを選ぶと、なめらかな生地に仕上がります。開封後は湿気を避け、密閉容器に入れて冷暗所で保管してください。
お菓子づくりにおけるポイントとしては、ひよこ豆はそのままでも十分に甘みがありますが、他の材料との相性を考えることが大切です。カルダモン、シナモン、バニラなどのスパイスやフレーバーとの相性が抜群で、チョコレートやカカオとの組み合わせも優れています。また、ナッツ類(ピスタチオ、アーモンド、カシューナッツなど)との相性も良く、食感のコントラストが楽しめます。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で入手しやすいひよこ豆関連の製品としては、以下のようなものがあります。
乾燥ひよこ豆は、製菓・製パン材料の専門店富澤商店(TOMIZ)が「ひよこ豆」として取り扱っています。富澤商店はひよこ豆パウダー(ひよこ豆粉)も販売しており、製菓用途に幅広く利用されています。また、豆専門店や輸入食材店でも乾燥ひよこ豆が袋詰めで販売されています。
水煮缶詰・パウチ製品では、いなば食品の「毎日サラダ ひよこ豆(ガルバンゾ)」が全国のスーパーマーケットで広く流通しています。国産缶詰として手に入りやすく、食塩無添加タイプもラインナップされています。サラダクラブ(キユーピーグループ)の「ガルバンゾ(ひよこ豆)」パウチ製品も、スーパーの棚でよく見かけるブランドです。天狗缶詰のドライパックシリーズにもひよこ豆製品があり、業務用から家庭用まで幅広く展開しています。
オーガニック志向の方には、アリサンの「有機ひよこ豆缶詰」が定番です。アメリカの有機農家から調達したひよこ豆を使用しており、自然食品店やオーガニックスーパーで取り扱いがあります。イタリア産の有機ひよこ豆水煮缶としては、ソル・レオーネ(Solleone)ブランドも人気があります。
ベサン粉(ひよこ豆粉)では、神戸スパイスの「ベサン粉」がAmazonや楽天などの通販で広く販売されています。また、インド食材専門のSHERブランドのベサン粉も品質が安定しており、インド食材店で定番の製品です。
歴史・由来
ひよこ豆は、人類が最も古くから栽培してきた穀物・豆類のひとつであり、その歴史は新石器時代にまで遡ります。考古学的な証拠として最古のものは、シリアのテル・エル・ケルフ遺跡から出土した約1万年前の種子です。また、アナトリア半島(現トルコ領)のハジュラル遺跡からも約7500年前のひよこ豆が発見されており、中東の「肥沃な三日月地帯」が栽培の起源地であると考えられています。
紀元前4000年頃には地中海世界一帯にまで広がり、紀元前2000年頃にはインド亜大陸にまで伝播しました。インドの古代文献「ヴェーダ」にもひよこ豆の名が登場しており、南アジアでは数千年にわたって主要な食料源として利用されてきました。
古代エジプトでは盛んに栽培され、重要な食料作物のひとつとして位置づけられていました。「エジプト豆」という日本での別名は、この古代エジプトとの深い結びつきに由来するものです。
古代ローマでは、あらゆる社会階級の人々に食されるポピュラーな食材でした。先述のとおり、古代ローマの大弁論家マルクス・トゥッリウス・キケロ(Marcus Tullius Cicero)の姓「Cicero」はラテン語の cicer(ひよこ豆)に由来するとされています。キケロの祖先の誰かの鼻先にひよこ豆のような窪みがあったためにこの姓が付いたという逸話が、プルタルコスの『対比列伝』に記されています。
中世以降、ひよこ豆はスペインやポルトガルの食文化にも深く根付き、大航海時代にはスペイン人やポルトガル人の手によって中南米やアフリカ、フィリピンなどにも伝えられました。スペイン語の「Garbanzo」という名称は、古スペイン語の arvanço に遡るとされ、その語源はギリシャ語やラテン語の erebinthos(ひよこ豆を指す古い言葉)と関連があると考えられています。
インドにおいてひよこ豆は「チャナ」として現在も食文化の根幹をなす食材であり、世界の生産量の大半をインドが占めるに至っています。インドでは小粒のデシ種が主流で、挽き割りにした「チャナ・ダール」はカレーやスープに欠かせない食材、粉末状にした「ベサン粉」は天ぷらの衣やお菓子に広く使われます。ベサン・ラドゥをはじめとするひよこ豆粉のお菓子は、インドの祝祭文化と密接に結びついており、数百年にわたる歴史を持つ伝統菓子として今も多くの人々に愛されています。
日本へは明治時代以降に紹介されたと考えられますが、長らくあまり馴染みのない豆でした。しかし、20世紀後半からの国際的な食文化の広がりとともに、メキシコやアメリカからの輸入が増え、エスニック料理ブームやヘルシー志向の高まりとともに、サラダ、スープ、カレーの具材として日本の食卓にも定着しつつあります。さらに近年は、グルテンフリーやヴィーガン対応のお菓子づくりの素材として、製菓業界においても注目度が急速に高まっています。
