材料の名前(日本語・外国語)
日本語では「中力粉(ちゅうりきこ)」と呼ばれる。強力粉と薄力粉の中間に位置する小麦粉であり、「うどん粉」の別名で店頭に並んでいることも多い。英語では「all-purpose flour(オールパーパスフラワー)」が最も近い対応語として知られており、日本の中力粉とほぼ同等のタンパク質含有量を持つ万能小麦粉として欧米の家庭で広く使用されている。また、英語圏では「medium-strength flour(ミディアムストレングスフラワー)」あるいは「medium flour」と表記されることもある。
フランス語では小麦粉全般を「farine de blé(ファリーヌ・ド・ブレ)」と呼ぶが、フランスの小麦粉は日本のようにグルテン量で分類するのではなく、灰分の量に基づく「Type」番号(T45、T55、T65など)で分類される。中力粉に近い性質を持つのはT55程度の小麦粉である。ドイツ語でも同様に番号制が採用されており、小麦粉の総称は「Weizenmehl(ヴァイツェンメール)」、中力粉に相当するのはType 550程度とされる。イタリアでは小麦粉を「farina(ファリーナ)」と呼び、「00」「0」「1」「2」といった精製度合いで分類しており、日本のように「強力」「中力」「薄力」という概念で分ける習慣はない。中国語では「中筋麺粉(ちゅうきんめんふん)」と呼ばれ、高筋麺粉(強力粉)・低筋麺粉(薄力粉)とともにグルテンの多寡で三段階に分類されている。
このように、グルテン含有量に基づいて小麦粉を「強力粉」「中力粉」「薄力粉」と三分類するのは、日本と中国に特有の考え方であり、欧米諸国では用途別の名称や灰分量による番号制が主流である。
特徴
中力粉の最大の特徴は、タンパク質(グルテン)の含有量が強力粉と薄力粉のちょうど中間に位置する点にある。一般的に、中力粉のタンパク質含有量は約7.5〜10.5%とされ、強力粉(約11.5〜13.5%)や薄力粉(約7.0〜8.5%)と比較すると、中庸なグルテン量と質を備えている。日本食品標準成分表によれば、中力粉1等の100gあたりのタンパク質量は9.0g、エネルギーは337kcal、水分は14.0gである。
グルテンとは、小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が、水を加えてこねることで結合して形成される網目状の構造体である。このグルテンが生地に粘弾性を与え、もちもちとした食感や適度な弾力を生み出す。中力粉のグルテンは「軟質」に分類されるが、薄力粉のグルテン(「軟弱」)よりはやや強い力を持つ。そのため、中力粉で作った生地は、薄力粉のようなさっくり軽い食感と、強力粉のようなしっかりとした弾力の両方の性質を兼ね備えた、バランスのよい仕上がりになる。
原料となる小麦は主に「中間質小麦」や「軟質小麦」であり、粒の硬さが硬質小麦(強力粉の原料)と軟質小麦(薄力粉の原料)の中間に位置する。粉の粒子は薄力粉ほど細かくはなく、強力粉ほど粗くもない中間的なきめの細かさを持つ。色はやや白みがかったクリーム色が一般的で、灰分(ミネラル分)は製品によって異なるが、概ね0.33〜0.57%程度の範囲にある。
用途
中力粉は日本においては「うどん粉」として広く認知されているとおり、うどんをはじめとする日本麺の原料として最もよく使われている。中力粉の適度なグルテン量が、うどん特有のつるりとしたのど越しともちもちとした弾力を生み出すのに最適だからである。強力粉を使うと麺が硬くなりすぎ、薄力粉では締まりすぎて食感が損なわれるため、うどんには中力粉が最適とされている。
お菓子づくりにおいても、中力粉は独自の役割を果たす。製菓の主役は薄力粉であるが、中力粉を使うことで、薄力粉では出せない「ほどよい歯ごたえ」や「しっかりとした食べ応え」のあるお菓子に仕上がる。具体的には、スコーンやビスケットに中力粉を使うと、外側はサクッと香ばしく、内側はふんわりもっちりとした二重の食感が楽しめる。アメリカンスタイルのクッキーでは、all-purpose flour(中力粉相当)が標準的な材料として使われており、「チューイー(しっとりもちもち)」な食感のクッキーには欠かせない存在である。また、どら焼きや饅頭といった和菓子にも中力粉は多用される。日清製粉の業務用中力粉「雪」は、饅頭やどら焼き向けの菓子用粉として位置づけられている。さらに、チュロス、マドレーヌ、ホットケーキ、パンケーキなど、適度な弾力と柔らかさを両立させたいお菓子全般に適している。
お菓子以外の用途としては、お好み焼きやたこ焼きといった粉ものの鉄板料理、天ぷらの衣、おやき、バゲットやカンパーニュなどのハード系パンにも使われる。このように、中力粉は麺類から菓子、パン、料理に至るまで幅広い用途に対応できる、まさに万能な小麦粉である。
なお、手元に中力粉がない場合は、薄力粉と強力粉を1:1の割合で混ぜ合わせることで、グルテン量が中力粉に近い性質の粉を作ることができる。逆に言えば、中力粉は薄力粉の代わりにも強力粉の代わりにもある程度使える汎用性の高さを持っている。
主な原産国
中力粉の原料となる中間質小麦の主な産地は、オーストラリアと日本国内である。
オーストラリアは、日本の中力粉用小麦の最大の供給国であり、「ASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト)」と呼ばれる銘柄が日本の麺用小麦粉の原料として圧倒的なシェアを誇っている。讃岐うどんの原料小麦のおよそ9割がオーストラリア産とされるほど、日本のうどん文化とオーストラリア産小麦は切っても切れない関係にある。ASWは西オーストラリア州を主な生産地とし、日本向けに品質管理がなされた独自仕様の銘柄である。タンパク質含有量が10%前後で安定しており、色の白さとなめらかな食感が特徴で、うどんの製造に極めて適している。
日本国内でも中間質小麦の栽培は行われており、主な産地は北海道、香川県、群馬県、埼玉県などである。近年は国産小麦の品種改良が進み、香川県で開発された「さぬきの夢」シリーズは、讃岐うどんに適した国産中間質小麦として注目を集めている。北海道産の「きたほなみ」も中力粉の原料として広く使用されている品種である。
そのほか、アメリカやカナダからも小麦が輸入されているが、これらは主に強力粉や薄力粉の原料となる硬質小麦や軟質小麦が中心であり、中力粉の原料としてはオーストラリア産と国産が主流である。
選び方とポイント
中力粉を選ぶ際には、用途に応じてタンパク質含有量と灰分に注目することが大切である。
タンパク質(粗蛋白)は、含有量が多いほどグルテンの力が強くなり、弾力のある仕上がりになる。うどんのようにもちもちとした食感を重視する場合は、タンパク質が8〜9%台の中力粉が適している。一方、どら焼きや饅頭などの和菓子に使う場合は、ふんわりとした仕上がりを目指して、やや高めのタンパク質量(10%前後)でバランスのよい菓子用中力粉が選ばれることもある。
灰分は、小麦粉に含まれるミネラル分の指標であり、灰分が低いほど白く上品な仕上がりになる。灰分0.3%台の小麦粉は色が白く、つるみのある麺や見た目の美しいお菓子に向いている。灰分が高め(0.5%以上)の中力粉は、小麦の風味が豊かになる反面、色がくすむ傾向があるため、素朴な味わいのおやきや天ぷら衣などに適している。
保存方法にも注意が必要である。小麦粉は湿気や高温に弱く、直射日光を避けた冷暗所で密閉容器に入れて保管するのが基本である。開封後は1〜2か月を目安に使い切ることが推奨されている。長期間放置すると、ダニやカビが発生する恐れがあるため、夏場は特に注意が必要である。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で流通している主な中力粉製品とメーカーは以下のとおりである。
日清製粉ウェルナ(家庭用)および日清製粉(業務用)は、中力粉市場において最大のシェアを持つメーカーである。家庭用製品としては「日清 雪 チャック付」が定番中の定番で、うどん、お好み焼き、天ぷら、お菓子など幅広い用途に使える万能中力粉として高い人気を誇る。また「日清 手打うどんの小麦粉 チャック付」は、うどん作り初心者にも扱いやすい家庭用製品として親しまれている。業務用では「金斗雲」(灰分0.34%、粗蛋白8.0%)が手打ちうどん専門店に支持される高品質な製品として知られ、「白椿」「特雀」なども業務用として広く流通している。
ニップン(旧・日本製粉)も大手製粉メーカーとして中力粉を幅広く展開している。業務用の「めん匠(めんたくみ)」は手打ちうどん専用粉として、生地の伸びのよさと凛とした艶のある仕上がりが評価されている。「さぬき菊」「たけ」なども業務用中力粉として流通している。
木下製粉は、香川県に拠点を置く讃岐うどんの本場のメーカーであり、「讃岐すずらん」はうどん専門店でも愛用される看板商品である。ほのかな香りと甘みが特徴で、飽きのこない讃岐うどんが打てると評判が高い。「さぬき一番粉」は讃岐麺機との共同開発製品で、全く新しいコンセプトのうどん専門店用小麦粉として注目されている。また「さぬきの夢」は国産小麦100%を使用した製品で、国産志向のユーザーから支持されている。
その他、江別製粉(北海道)、前田食品、熊本製粉、吉原食糧(香川県)なども中力粉を製造・販売しており、地域の特色を活かした製品を展開している。
歴史・由来
小麦は人類最古の栽培作物のひとつであり、その起源は約1万年前のメソポタミア地方(現在のイラク周辺)にまでさかのぼる。中央アジアの高原地帯が原産地とされ、そこから長い年月をかけてヨーロッパ、アフリカ、アジアへと伝播した。日本には紀元前1世紀〜4世紀の弥生時代に中国大陸から朝鮮半島を経由して伝来したとされ、「日本書紀」にもその記録が残されている。
古代の小麦粉は、石臼で挽いてふるいにかけるという素朴な方法で製造されていた。平安時代には中国から小麦粉や米粉を使った食品がもたらされ「唐菓子」と呼ばれ、これが日本における小麦粉を使ったお菓子の原点ともいえる。しかし、現代のように小麦粉をグルテン量で「強力粉」「中力粉」「薄力粉」と分類するようになったのは、はるかに後の時代のことである。
日本における近代製粉業は明治時代に始まる。1873年(明治6年)に日本製粉(現・ニップン)の前身が設立され、1900年(明治33年)には日清製粉の前身である館林製粉が創業した。明治時代にはアメリカから輸入された良質な小麦粉が「メリケン粉」と呼ばれ、国産の「うどん粉」と区別されていた。当時の輸入小麦粉は中力粉か強力粉であった可能性が高いとされている。
「強力粉」「中力粉」「薄力粉」という分類名称は、明治時代末期に日本で自然発生的に生まれたものと考えられている。一般財団法人製粉振興会の見解によれば、製粉会社が販売の都合で名づけたものが普及したのではないかとされている。グルテンの力が強い粉を「強力粉」、その対極にある粉を「薄力粉」と呼んだのは、「弱力粉」では印象が悪いため「薄力粉」という名称が選ばれたためだと推察されている。そして、その中間に位置する粉が「中力粉」と名付けられた。興味深いことに、このようなグルテン量による三段階の分類は、製粉の先進国である欧米には存在しない概念であった。欧米では「bread flour(パン用粉)」「cake flour(ケーキ用粉)」のように用途で呼び分けるか、灰分量による番号制で分類するのが一般的であった。日本でこれほど明確な分類体系が発達した背景には、うどんという伝統的な和風麺の文化に加え、パンやケーキといった西洋の食文化を受容し、どの料理も美味しく作りたいという日本人の食への探究心があったと考えられている。
第二次世界大戦後、アメリカからの小麦援助やパン食の普及によって日本人の小麦粉消費量は飛躍的に増大し、強力粉・中力粉・薄力粉の使い分けもより一般的なものとなった。特に讃岐うどんブームなどを通じて中力粉の認知度は高まり、1960年代以降はオーストラリア産ASW小麦の安定的な輸入が始まったことで、日本のうどん用中力粉の品質は大きく向上した。現在では家庭用チャック付きパッケージの製品も充実し、中力粉はプロの職人だけでなく家庭のキッチンにも浸透している。
