材料の名前
米粉は、日本語では「こめこ」と読むのが一般的ですが、「べいふん」と音読みされることもあります。「べいふん」と読む場合は、ビーフンなどの麺類を指す文脈で使われることが多く、お菓子や製パン用途では「こめこ」と呼ぶのが通例です。
各国語での名称は以下のとおりです。英語では「Rice Flour(ライスフラワー)」、フランス語では「Farine de riz(ファリーヌ・ド・リ)」、中国語(簡体字)では「米粉(mǐfěn)」または「大米面(dàmǐmiàn)」、韓国語では「쌀가루(サルガル)」と呼ばれます。なお、もち米を原料とした米粉は英語で「Glutinous Rice Flour」と区別されることがあり、タイ語では「แป้งข้าวเจ้า(ペーンカオジャオ/うるち米粉)」と「แป้งข้าวเหนียว(ペーンカオニアオ/もち米粉)」のように、原料米の種類によって呼び名が変わります。
特徴
米粉とは、お米(うるち米またはもち米)を製粉して粉末状にしたものの総称です。その最大の特徴は、小麦粉と異なりグルテンを含まない点にあります。グルテンは小麦に含まれるたんぱく質で、生地に弾力と粘りを与える働きがありますが、セリアック病や小麦アレルギーを持つ人にとっては摂取できない成分です。米粉はこうした方にとって安心して使える代替素材として、近年ますます注目されています。
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によると、米粉(うるち米製品)100gあたりの主な栄養成分は、エネルギー356kcal、たんぱく質6.0g、脂質0.7g、炭水化物81.9g(うち糖質81.3g、食物繊維0.6g)となっています。薄力粉(小麦粉)のエネルギーが100gあたり約349kcalですので、カロリーはほぼ同等ですが、米粉は脂質が低く、必須アミノ酸のバランスに優れたたんぱく質を含むとされています。
米粉をお菓子に使ったときの食感も大きな特徴です。水分を含みやすい性質があるため、焼き上げたお菓子には「もちもち」「しっとり」とした独特の食感が生まれます。一方で、グルテンを形成しないためクッキーなどの焼き菓子に使うとサクサクとした軽い仕上がりになり、口の中でほろりとほどける「サクほろ食感」を楽しむことができます。また、粒子が非常に細かい製菓用米粉はダマになりにくく、小麦粉のように使用前にふるいにかける手間が省けるというメリットもあります。
米粉の成分のおよそ80%はでんぷん(澱粉)であり、このでんぷんはアミロースとアミロペクチンという二つの成分から構成されています。うるち米はアミロースを約20%含み、もち米はほぼ100%がアミロペクチンで構成されています。アミロースの含有量はお菓子の硬化速度や食感に大きく影響し、アミロースが多いほど冷めた後に硬くなりやすい傾向があります。このため、米粉製品ではアミロース含量を考慮した品種選びが重要です。
用途
米粉は、古来より和菓子の主要原材料として欠かせない存在でした。うるち米を原料とする「上新粉」は柏餅や草餅、だんごなど歯切れのよい食感の和菓子に使われ、もち米を原料とする「もち粉」や「白玉粉」は白玉だんご、大福、求肥(ぎゅうひ)など、なめらかでもちもちとした食感の和菓子に用いられます。また、糊化(アルファ化)処理を施した米粉としては、もち米を蒸して乾燥させた「道明寺粉」が桜餅(道明寺)に、蒸した餅を焼いてから粉にした「寒梅粉」が落雁や打ち菓子の仕上げに使われています。
近年は微細な製粉技術の進歩により、洋菓子や製パンへの活用が急速に広がっています。製菓用米粉を使えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、マフィン、パウンドケーキなどを小麦粉に近い感覚で焼き上げることができます。仕上がりは小麦粉のお菓子とはまた違った軽やかさとしっとり感があり、お米本来のほのかな甘みが感じられるのが魅力です。クッキーやタルト生地では、グルテンが形成されない分だけ生地が引き締まりすぎず、もろく繊細な口溶けのよいお菓子に仕上がります。
パン用米粉としては、グルテンを添加してボリュームを出すタイプと、米粉100%でグルテンフリーのパンを焼くタイプの二種類が主流です。製パンに適した米粉用品種「ミズホチカラ」や「笑みたわわ」などの登場により、米粉100%でもふんわりとしたパンが焼けるようになりました。
お菓子以外にも、天ぷらや唐揚げの衣に使えばカリッとした軽い食感に仕上がり、ホワイトソースやシチューなどのとろみ付けにも利用できます。
米粉の種類
米粉は、原料が「うるち米」か「もち米」か、そして「未糊化(ベータ型・生粉)」か「糊化(アルファ型・加熱処理済)」かによって大きく分類されます。
うるち米の未糊化の米粉の代表が「上新粉」で、洗米後に乾燥または脱水してから製粉して作られます。上新粉のなかでもとりわけ微細に製粉したものは「上用粉」と呼ばれ、薯蕷まんじゅうやういろうなどの上品な和菓子に使われてきました。近年「製菓用米粉」として販売されている製品の多くは、この上用粉に相当する微粒子の米粉です。
もち米の未糊化の米粉は「もち粉」と呼ばれ、大福やおはぎなどに使用されます。もち粉のなかでも特に粒子が細かいものは「求肥粉」と呼ばれます。「白玉粉」はもち米を水と一緒に石臼で挽き、乳液を沈殿・圧搾・乾燥させるという独特の製法で作られ、でんぷん以外の成分が流れ出るため、上品で透明感のある仕上がりが特徴です。
糊化処理を施したアルファ型の米粉には、もち米由来の「道明寺粉」「寒梅粉」「みじん粉」や、うるち米由来の「上南粉」「早みじん粉」などがあり、それぞれ加熱方法(蒸す・焼く・煎る)や仕上げの工程の違いで風味や粘度が異なります。
主な原産国
米粉の原料となる米(稲)の原産地は、現在最も有力な説では中国の長江中・下流域とされています。今から2200〜2300年前(縄文時代後期)に日本に伝播し、弥生時代に本格的に広がりました。
現在の世界の米の生産量については、インドと中国が突出しており、2024年時点でインドの生産量が中国を上回り世界最大の米生産国となったという報道もあります。続いてバングラデシュ、インドネシア、ベトナム、タイ、ミャンマー、フィリピン、日本などがアジアを中心に主要な米生産国に名を連ねています。
米粉として加工され国際的に流通しているものについては、タイ産やベトナム産のものが多く見られます。特にタイは長粒種(インディカ米)の米粉やもち米粉の輸出国として知られ、東南アジア料理のライスヌードルや菓子の材料として世界中で使われています。日本国内で製菓・製パン用に販売されている米粉は、ほとんどが国産米を原料としており、新潟県、熊本県、九州各県などが主要な産地です。
選び方とポイント
米粉を選ぶ際に最も重要なのは、用途に合った米粉を選ぶことです。米粉はメーカーや製品ごとに粒度(粒子の細かさ)、澱粉損傷度、アミロース含量、吸水率が異なり、同じ「米粉」でも焼き上がりの食感はまったく変わります。
まず製菓用と製パン用の区別が基本です。お菓子を作りたい場合は「製菓用米粉」を選びましょう。製菓用米粉はうるち米100%の微粒粉末で、スポンジケーキやシフォンケーキの気泡を潰さないよう極めて細かく加工されています。パンを焼きたい場合は「パン用米粉」を選びます。パン用は製菓用とはアミロース含量や粒度設計が異なり、ふっくらとボリュームのあるパンに仕上がるよう最適化されています。
和菓子を作る場合は、目的に合わせて上新粉、白玉粉、もち粉、道明寺粉などを選び分けます。だんごや柏餅には上新粉、白玉だんごや求肥には白玉粉またはもち粉、桜餅には道明寺粉、といったように用途と食感の相性で選ぶのが定石です。
メーカーごとの吸水率の違いにも注意が必要です。米粉はメーカーや使用品種によって水を吸う量が大きく異なるため、あるレシピで指定されている米粉と別のメーカーの製品を使う場合は、水分量の調整が必要になることがあります。初心者のうちはレシピで指定されているメーカーの米粉を使うのが失敗を防ぐコツです。
保存については、開封後は密閉容器に入れて高温多湿を避け、冷暗所で保管するのが基本です。米粉は水分を吸いやすい性質があるため、湿気を含むと品質が劣化しやすくなります。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内で広く流通している米粉製品と主なメーカーを紹介します。
波里(NAMISATO) は栃木県に本社を置く老舗の米粉メーカーで、「お米の粉」シリーズが全国のスーパーで手に入る定番商品です。薄力粉タイプ、強力粉タイプなど用途別にラインナップが充実しており、家庭での米粉料理入門に適しています。
共立食品 の「米の粉」は、製菓材料メーカーとして知名度の高い共立食品が手がける米粉製品で、粒子が細かくサラサラとした質感が特徴です。小麦粉感覚で使いやすく、米粉ビギナーからも支持されています。
熊本製粉 は、米粉用品種「ミズホチカラ」を使った「九州ミズホチカラ米粉」シリーズで知られます。パン用・製菓用を展開しており、8大アレルゲンを持ち込まない専用工場で生産されていることから、アレルギー対応の製品として高い信頼を得ています。グルテンフリー認証を取得した製品もあります。
みたけ食品工業 の「米粉パウダー」シリーズは、料理からお菓子まで幅広く使える汎用性の高さが魅力です。
富澤商店(TOMIZ) は製菓・製パン材料の専門店として、自社ブランドの製菓用米粉・パン用米粉を展開するほか、ミズホチカラや「笑みたわわ」といった品種別の米粉を豊富に取り扱っています。「リ・ファリーヌ」は同社の人気製品で、国産うるち米を小麦粉の約2分の1の粒子に仕上げた微細米粉です。
小城製粉 は鹿児島県に本社を置き、かるかん饅頭専用粉などの和菓子用米粉で長い歴史を持つメーカーです。近年は米粉100%でグルテンフリーのパンやパイが焼ける技術を開発し、新しい米粉の可能性を広げています。
ニップン(旧・日本製粉) も業務用・家庭用の米粉製品を展開しており、業務スーパーで販売されている国産米粉の製造元としても知られています。
歴史・由来
米粉の歴史は、日本における米食文化の歴史と密接に結びついています。
日本への稲作の伝来は、今から約2200〜2300年前の縄文時代後期に遡ります。稲の原産地については諸説ありますが、現在最も有力とされているのは中国の長江中・下流域です。弥生時代に入ると稲作は日本列島各地に広がり、米は日本人の主食として定着していきました。
米を粉にして菓子に利用する文化が日本に伝わったのは奈良時代(710〜794年)のことです。遣唐使を通じて唐(中国)から「唐菓子」が伝えられました。これは小麦粉や米粉で型を作り、油で揚げた煎餅や環餅(まがり)のような菓子で、日本における穀物粉を加工した菓子の始まりとされています。
その後、鎌倉時代から室町時代にかけて、宋や元(中国)へ留学した禅僧たちが持ち帰った点心(てんしん)の文化が日本の菓子に影響を与えました。さらに安土桃山時代の1571年頃には南蛮貿易を通じてカステラやコンペイトウなどの南蛮菓子が渡来し、日本の菓子文化に大きな刺激を与えました。
米粉が本格的にお菓子の原材料として花開いたのは江戸時代です。茶道の発展とともに、上層階級だけでなく庶民の間にも和菓子文化が広がりました。各地の神社仏閣における神饌(しんせん)・供饌(くせん)菓子に始まり、公家や大名の御用菓子、さらにはその土地の気候風土で育った産物を生かした郷土菓子が各地で発達しました。この時代に和菓子は日本独自の美の表現として完成をみたとされ、その主原料こそが米をはじめとする穀物の粉だったのです。
当初、米を粉にするには挽き臼を使った人力による作業が必要でしたが、やがて水車の普及に伴い搗き臼による搗精技術が発達し、より効率的に良質な米粉が生産できるようになりました。明治時代以降は機械化が進み、米粉の品質はさらに向上しました。
そして21世紀に入ると、米粉の歴史に新たなページが加わります。従来の和菓子用途を超え、微細製粉技術の革新によって洋菓子やパンにも使える新しいタイプの米粉が開発されました。2009年に農研機構の九州沖縄農業研究センターで開発された米粉用品種「ミズホチカラ」は、アミロース含量や粒子特性がパン・菓子づくりに適しており、米粉の用途拡大に大きく貢献しました。その子孫品種にあたる「笑みたわわ」も製パン・製菓に適した品種として普及が進んでいます。
また、2020年代に入ると、ウクライナ情勢の影響による小麦粉価格の高騰をきっかけに、小麦粉の代替品としての米粉への関心が「第2次米粉ブーム」として一層高まりました。日本は小麦の大部分を輸入に頼っていますが、米の生産量は国内で安定しており、食料自給率の向上という観点からも米粉の利用拡大は国の政策として推進されています。
奈良時代に唐菓子の原料として渡来してから約1300年。米粉は和菓子の伝統を支え続けながら、グルテンフリー食材という現代的な価値も備え、世界に通用するお菓子の原材料として新しい時代を迎えています。
