材料の名前(日本語・外国語)

「生イースト」は、製パン・製菓に用いられる代表的な膨張剤(発酵種)のひとつである。日本語では「生イースト」のほか「圧搾酵母(あっさくこうぼ)」「フレッシュイースト」とも呼ばれる。英語では “fresh yeast” または “compressed yeast” と表記され、フランス語では “levure fraîche(ルヴュール・フレーシュ)”、ドイツ語では “Frischhefe(フリッシュヘーフェ)”、イタリア語では “lievito fresco(リエヴィト・フレスコ)” と呼ばれる。

学名は「サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)」で、これはラテン語で「糖を食べるビールの菌」という意味を持つ。同種の酵母はビール醸造やワイン発酵にも使用されるが、製パン・製菓に用いられるものは、パンの膨張に特に適した菌株を選抜・純粋培養した専用の品種である。

特徴

生イーストは、パン酵母を培養した後、培養液から分離・水洗いし、圧搾して水切りした固形状の酵母である。黄土色からクリーム色をした粘土のようなやわらかい質感が特徴で、しっとりとした手触りを持つ。水分含有量は約65〜70%と高く、触ると簡単にほぐれる。良質な生イーストはフルーティーでほのかに甘い香りを放ち、均一に割れる弾力がある。反対に、劣化したものは粘りが出てチーズのような異臭を発するようになる。

生イーストの最大の特徴は「耐糖性」の高さにある。砂糖を多く配合するリッチな生地でも、浸透圧に負けずに安定した発酵を行うことができるため、菓子パンや発酵菓子の製造に特に重宝される。また、ドライイーストやインスタントドライイーストと比較して発酵時間が短く、いわゆる「イースト臭」が出にくいのも大きな利点である。焼き上がりには素材本来の風味を損なわない、ほのかな甘みとふんわりとした食感が生まれる。

一方で、生イーストにはいくつかの扱いにくい面もある。賞味期限が極めて短く、冷蔵保存(2〜5℃)で約2週間程度しか持たない。常温に放置すると酵母が活動を始めて発酵力が急速に低下するため、購入後は速やかに冷蔵庫へ保管する必要がある。生イーストそのものの冷凍保存は、内部の水分が氷結し酵母の細胞が破壊されるため推奨されていないが、生イーストを使って仕込んだパン生地は冷凍保存が可能であり、プロのパン屋では分割後の生地を冷凍ストックする手法が広く活用されている。

栄養面では、生イーストはたんぱく質、ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、葉酸など)、各種ミネラル(リン、カリウム、亜鉛など)を豊富に含む。100gあたりのエネルギーは約103kcal(オリエンタル酵母製品の場合)で、たんぱく質は16.5g、炭水化物は12.1g、脂質は1.5g程度である。

使用量の目安は、粉(強力粉)に対して2〜3.5%が標準とされている。インスタントドライイーストから置き換える場合は、インスタントドライイーストの2.5〜3倍量を使用する。使用時には、レシピに記載された水分量(水や牛乳)に生イーストを溶かしてから他の材料と合わせるのが基本的な手順である。約70%が水分であるため、液体によく溶け、均一に混ざりやすい。

用途

生イーストは、製パンおよび製菓の幅広い領域で活躍する原材料である。

製パンにおいては、食パン、バゲット、テーブルロール、ピザ生地など、ほぼすべてのパンに使用可能である。特に砂糖やバター、卵を多く使うリッチな生地——菓子パン、デニッシュ、クロワッサンなどとの相性が抜群で、プロのパン職人が好んで使用する理由もここにある。耐糖性に優れるため、砂糖の配合量が粉に対して10%を超えるような高配合の生地でも安定した発酵が得られる。

製菓(お菓子作り)の分野では、発酵を伴う菓子類に欠かせない存在である。具体的には、ブリオッシュ(バターと卵をたっぷり使ったフランスの発酵菓子)、サバラン/ババ(ブリオッシュ生地に洋酒入りシロップを染み込ませたフランス伝統菓子)、パネトーネ(イタリアのクリスマス発酵菓子)、シュトーレン(ドイツのクリスマス発酵菓子)、クグロフ(アルザス地方の伝統的な発酵菓子)などが代表的な用途である。これらの菓子では、砂糖やバターが大量に使われるため、耐糖性が高くイースト臭の少ない生イーストが最適な選択肢となる。

また、ドーナツ(イーストドーナツ)やシナモンロールなどの甘い菓子パン類でも生イーストが用いられることがある。生イーストを使用した焼き菓子は、ふんわりと軽い食感と、素材そのものの風味が際立つ仕上がりになるのが魅力である。

主な原産国・生産国

生イーストの原料であるパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、世界各地で工業的に培養・製造されている。酵母は自然界の果物や穀物の表面など至るところに存在する微生物であるが、製パン用の生イーストは糖蜜(サトウキビやテンサイから砂糖を精製する過程で生じる副産物)を培地として大規模な工場で純粋培養されるものであり、天然採取ではなく工業製品として供給される。

世界的な主要生産国としては、フランスが最大手メーカーのルサッフル(Lesaffre)社の本拠地として知られるほか、イギリス(ABマウリ〔AB Mauri〕の拠点)、カナダ(ラレマンド〔Lallemand〕社の本拠地)、中国(安琪酵母〔Angel Yeast〕の本拠地)、アメリカ合衆国、ドイツ、トルコなどが主要な生産拠点となっている。

日本国内においては、1929年に創立されたオリエンタル酵母工業株式会社が、国内初の製パン用イーストメーカーとして知られ、現在も国産パン酵母のトップメーカーの地位を占めている。日本で流通する生イーストの多くは国内製造品であり、オリエンタル酵母の製品が圧倒的なシェアを持つ。

選び方とポイント

生イーストを選ぶ際には、以下の点に注意すると失敗が少ない。

まず、鮮度の確認が最も重要である。生イーストは生きた微生物であり、賞味期限が非常に短い(冷蔵で約2週間)。購入時には必ず賞味期限を確認し、できるだけ製造日から日が浅いものを選ぶことが大切である。通販で購入する場合も、「届いた時点で賞味期限が5日以上残っている」などの保証があるショップを選ぶと安心できる。

次に、外観と香りの確認である。良質な生イーストは、均一なクリーム色〜淡い黄土色をしており、表面に乾燥や変色がない。手で割ったときに均一に割れ、崩れやすすぎないものが新鮮な証拠である。フルーティーでほのかに甘い酵母特有の香りがするものが理想で、酸味のある刺激臭やチーズのような異臭がするものは劣化のサインである。

用途に応じた製品選びも重要なポイントとなる。生イーストには、無糖〜低糖生地向けのレギュラータイプと、糖分の多い菓子パン生地に適した高耐糖タイプ(USイーストなど)がある。お菓子作りに使用する場合は、耐糖性に優れた製品を選ぶとよい。

購入先については、生イーストは一般的なスーパーマーケットではあまり見かけないため、富澤商店(TOMIZ)、cotta、ママパンなどの製菓・製パン材料専門店やオンラインショップで購入するのが主流である。業務用の500gパックが基本的な販売単位だが、家庭向けに100g単位で購入できるショップもある。

保存方法としては、購入後は必ず冷蔵庫(0〜5℃)に入れ、乾燥を防ぐためにワックスペーパーやラップでしっかりと密封する。開封後はできるだけ早く(1〜2週間以内に)使い切ることが望ましい。

メジャーな製品とメーカー名

国内メーカー

日本市場において最も代表的な生イーストメーカーは、オリエンタル酵母工業株式会社(本社:東京都板橋区、1929年創立)である。日本で最初の製パン用イーストメーカーであり、国内の製パン業界に長年にわたり信頼を提供してきた。オリエンタル酵母の主な生イースト製品としては、「オリエンタルイースト(レギュラータイプ)」が定番製品として広く知られている。無糖〜低糖生地から菓子パンまで幅広く対応でき、親しみやすい発酵風味が特徴のオールラウンドな製品である。また、「USイースト」は耐糖性に特化した製品で、砂糖の配合が多い菓子パンやデニッシュ、ブリオッシュなどの発酵菓子に最適とされている。イースト臭やアルコール臭を抑えた、ほのかな甘みと自然な香りが魅力で、冷凍生地への適性も高い。さらに、「レギュラ LT-3イースト」は冷凍生地向けに耐冷凍性能を高めた製品である。

日本甜菜製糖株式会社(ニッテン)も製パン用イーストの製造を手がけており、業務用市場でのシェアを持っている。

海外メーカー

世界最大のイーストメーカーは、1853年にフランスで創業した**ルサッフル(Lesaffre)社である。SAFブランドのドライイーストで知られるが、生イースト(圧搾酵母)も世界各地の工場で大量に製造・供給している。ABマウリ(AB Mauri)は英国の大手食品グループ・アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ABF)の傘下にあるイーストメーカーで、北米ではフライシュマンズ(Fleischmann’s)ブランドで広く知られている。カナダに本拠を置くラレマンド(Lallemand)社も世界的なイーストメーカーのひとつで、酵母の研究開発に強みを持つ。中国の安琪酵母(Angel Yeast)**は近年急成長を遂げたメーカーで、アジアを中心に世界的なプレゼンスを拡大している。

歴史・由来

生イーストの歴史は、パンの歴史そのものと深く結びついている。

酵母を使った発酵パンの起源は、約6000年前の古代エジプトにまで遡るとされる。当時の人々は、小麦粉と水を混ぜた生地を暖かい場所に放置した結果、空気中に漂う野生酵母が自然に混入し、生地が膨らむ現象を偶然発見したと考えられている。古代エジプトでは、パン作りとビール醸造が密接に関連しており、ビール製造の過程で生じる酵母の泡(バルム)がパン生地の発酵にも利用されていた。ただし、当時は発酵の科学的メカニズムは全く理解されておらず、前回の生地の一部を次のバッチに種継ぎする「老麺法」と呼ばれる経験則に基づいた方法で発酵の技術が受け継がれていた。

17世紀後半、オランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek)が自作の顕微鏡を使い、発酵中のビールの中に微小な粒子——すなわち酵母菌の存在を初めて確認した。これが酵母の科学的発見の始まりである。

そして19世紀半ば、フランスの生化学者ルイ・パスツール(Louis Pasteur)が発酵の原理を科学的に解明した。1857年、パスツールは「酵母が糖をアルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)に分解する」という発酵のメカニズムを初めて理論的に明らかにした。この画期的な発見により、酵母の研究と利用は飛躍的に進歩することになる。

19世紀半ばのウィーンでは、「ウィーン製法(Vienna Process)」と呼ばれる革新的なパン製造技術が1846年に開発された。これは、ビール醸造から得られる上面発酵酵母を効率的に培養・回収する技術を含むもので、安定した品質のパン酵母を工業的に供給する基盤となった。1879年にはイギリスで酵母の専用培養槽が導入され、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカでは遠心分離機による酵母の濃縮技術が確立された。これにより、液体状の酵母スラリーは「クリームイースト」として流通するようになり、さらに水分を除去して固形化した「圧搾酵母(compressed yeast)」——すなわち現在の「生イースト」が、20世紀前半に欧米のパン製造の標準的な発酵種として広く普及した。

第二次世界大戦中には、冷蔵を必要とせず長期保存が可能な顆粒状の「アクティブドライイースト(活性乾燥酵母)」がアメリカのフライシュマンズ社によって開発され、軍用を中心に普及した。さらに1973年にはフランスのルサッフル社が「インスタントドライイースト」を開発し、予備発酵なしで直接粉に混ぜられる利便性から、家庭用を中心に急速にシェアを拡大した。

日本における生イーストの歴史に目を向けると、明治時代以降の西洋文化の流入とともにパン食が広がり始めたが、当初パン酵母は輸入に頼っていた。この状況を打破すべく、1929年(昭和4年)にオリエンタル酵母工業株式会社が設立され、日本初の国産パン酵母の製造が始まった。以来、同社は日本のパン産業・製菓産業の発展を支え続け、国産パン酵母のパイオニアとして現在に至っている。

現代においても、生イーストはプロのパン職人やパティシエから根強い支持を受けている。ドライイーストやインスタントドライイーストの普及により家庭ではやや影が薄くなったものの、その優れた耐糖性、イースト臭の少なさ、そして焼き上がりの風味の豊かさから、本格的なパン作りや発酵菓子の製造においては依然として不可欠な存在であり続けている。

免責事項

商品紹介等については、公式サイトおよび公開情報を基に作成しております。
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購入・ご利用の際は必ず最新のパッケージ表示または公式情報をご確認ください。特に食物アレルギーをお持ちの方は原材料を十分にご確認の上お求めください。
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