材料の名前
ショートニングは、日本語では「ショートニング」とそのままカタカナ表記で用いられます。英語では「shortening」と綴り、その語源は「shorten(サクサクさせる、もろくする)」という動詞に由来します。フランス語圏では「graisse végétale(植物性脂肪)」、ドイツ語では「Backfett(焼き菓子用脂肪)」などと表現されることもありますが、いずれの国でも英語由来の「shortening」がそのまま通じるケースが多く見られます。日本農林規格(JAS)においては、「食用油脂を原料として製造した固状又は流動状のものであって、可塑性、乳化性等の加工性を付与したもの(精製ラードを除く)」と定義されています。
特徴
ショートニングの最大の特徴は、「ほぼ油脂100%」で構成されている点にあります。JAS規格では水分(揮発分を含む)が0.5%以下と定められており、マーガリン(油脂含有率80%以上、水分17%以下)やバター(油脂含有率約80%、水分17%以下)と比較しても、油脂の純度が圧倒的に高い素材です。
見た目は白色のクリーム状で、無味無臭であるという性質を持っています。バターのような独特のコクや風味はありませんが、だからこそ素材本来の味や香りを損なうことなく使用できるという大きな利点があります。たとえば小麦粉やカカオ、フルーツなどの風味を前面に出したい焼き菓子づくりにおいて、ショートニングは「味の邪魔をしない油脂」として非常に重宝されます。
また、ショートニングは常温における伸びのよさ(可塑性)に優れており、生地への混ざりやすさが抜群です。この可塑性は「粘土のように力を加えることで自在に形が変えられるやわらかさ」と表現されることもあり、製菓・製パンの現場ではきわめて扱いやすい油脂として位置づけられています。
さらに、ショートニングは製品形態にもバリエーションがあり、窒素ガスを混入した固形状のもの以外にも、液体状や粉末状の製品が存在します。用途に応じて使い分けられるよう、メーカー各社が多彩なラインナップを展開しています。
用途
ショートニングはお菓子づくりにおいて幅広い場面で活用される、非常に汎用性の高い原材料です。
まず代表的な用途として挙げられるのが、クッキーやビスケットへの練り込みです。油脂を生地に加えることで小麦粉のグルテン形成が抑制され、サクサク、ホロホロとした脆く軽い食感が生まれます。ショートニングを使ったクッキーは、バターを使った場合のザクザクとした重めの食感とは異なり、口に入れた瞬間に崩れるような軽やかさが特徴です。「shorten=サクサクさせる」という名前の由来そのものが、この用途を端的に表しています。
次に重要な用途がパンへの添加です。食パンには約4%、ロールパンには約9%程度の油脂が配合されており、その選択肢のひとつとしてショートニングが使われます。生地に練り込むことで伸展性が向上し、パン酵母の発酵で生じるガスの保持力が高まるため、ふっくらと大きく焼き上がります。さらに、水分の蒸発を防いでパンが固くなるのを遅らせる効果もあり、日持ちの面でも有利です。
揚げ油としての利用も見逃せません。ドーナツの揚げ油やポテトチップスなどのスナック菓子の製造において、ショートニングは広く使われています。常温で固体であるショートニングは、揚げ物が冷めた際に油が固まるため、時間が経ってもべちゃっとせずカラッとした食感を維持できます。ドーナツでは衣がけした粉糖やグレーズが溶けてしまうのを防ぐ効果も期待できます。
そのほか、ウエハースのサンド用クリームやクッキーのサンドクリームといったフィリングの原料としても使用されます。水分を含まないショートニングをベースに、粉糖や粉乳、香料などを合わせて無水クリームを作ることで、日持ちの良いフィリングが実現します。アイスクリームの製造にも用いられることがあり、意外なほど多岐にわたる活躍の場を持つ素材です。
主な原産国・原料の産地
ショートニングそのものは加工油脂であるため「原産国」という概念は原料油脂の産地に帰結します。ショートニングに使用される主要な植物油脂とその産地は以下の通りです。
パーム油は、ショートニングの主要原料のひとつであり、世界生産量の約58%をインドネシアが、約25%をマレーシアが占めています。この2か国で世界全体の約83%を生産しており、タイやコロンビアがそれに続きます。大豆油も広く使われる原料で、中国、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンが四大生産国です。なたね油(キャノーラ油)はカナダ、中国、インド、ドイツなどが主要産地となっています。
日本国内で流通するショートニングは、これらの国々から輸入した植物油脂を原料として、国内の油脂メーカーが加工・製造しているケースが大半です。近年は原料の持続可能性に配慮し、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証を受けたパーム油を使用する動きも広がっています。
選び方とポイント
ショートニングを選ぶ際には、用途と目的に合った製品を見極めることが重要です。
第一のポイントは「用途別のタイプ」です。ショートニングには大きく分けて、固形タイプ(製菓・製パンの練り込み用)、液体タイプ(揚げ油用やスプレー用)、粉末タイプ(粉体素材への添加用)、ケーキ・アイシング用(起泡性に優れたタイプ)の4種類があります。クッキーやパイ生地に使うのであれば固形タイプ、ドーナツを揚げるのであれば揚げ物用を選ぶなど、作りたいお菓子に合った形態を選択しましょう。
第二のポイントは「トランス脂肪酸への配慮」です。かつてショートニングにはトランス脂肪酸が比較的多く含まれていましたが、近年は各メーカーの企業努力と技術革新により大幅に低減されています。農林水産省の調査によれば、平成18・19年度にはショートニング100gあたり約12gだったトランス脂肪酸量が、平成26・27年度には約1.0gにまで減少しました。健康面が気になる方は、トランス脂肪酸の含有量が明記された製品や、「トランスファットフリー」を謳う製品を選ぶとよいでしょう。
第三のポイントは「原料油脂の種類」です。植物油脂100%のもの、動物油脂を含むもの、オーガニック原料を使用したものなど、原材料の構成は製品によって異なります。ハラール対応やヴィーガン対応が必要な場合には、動物由来の油脂が含まれていないことを原材料表示で確認することが大切です。
第四のポイントは「家庭用か業務用か」です。家庭でのお菓子づくりであれば130g~500g程度の小容量パッケージが使い切りやすく便利です。一方、パン屋や菓子店などの業務用途では15kgの大容量缶などが流通しており、コストパフォーマンスに優れています。
メジャーな製品とメーカー名
日本国内でショートニングを製造・販売する主要メーカーと代表的な製品を紹介します。
ミヨシ油脂株式会社
マーガリン・ショートニング業界における国内最大手の一角を占めるメーカーです。製パン用、製菓用、フライ用など多彩なショートニング製品を展開しており、業務用市場で高いシェアを持っています。スポンジケーキ向けの起泡性乳化脂や、しっとりとした食感を付与する流動状ショートニングなど、用途に応じた専門性の高い製品が特徴です。
月島食品工業株式会社
マーガリン・ショートニング・ホイップクリームなどを主力とする食用加工油脂の専門メーカーです。代表的なショートニング製品には、なめらかで使いやすい「iPショートEF」、クリーミング性と抱蜜性に優れた菓子用の「カノーアショート」などがあります。長年の基礎研究に裏打ちされた技術力が強みです。
不二製油株式会社
植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材など幅広い食品素材を手がける大手メーカーであり、あっさりした風味の練り込み用ショートニングなどを製造しています。
家庭用・小規模事業者向け
ダーボンオーガニックジャパンが販売する「フレッシュプレス ショートニング」が広く知られています。コロンビア産の有機パーム油100%を原料とし、無水素添加製法で製造されているため、トランス脂肪酸をほとんど含まない点が高く評価されています。500g入りと1500g入りのサイズがあり、家庭でのお菓子づくりから小規模な製菓店まで対応可能です。日本では日本珈琲貿易株式会社が輸入元として取り扱っています。
ニップン(旧日本製粉)
家庭用の小容量製品「ふっくらパンショートニング(130g)」が販売されており、スーパーマーケットなどの一般小売店でも手に入りやすい製品として知られています。
海外メーカー
アメリカのCrisco(クリスコ)が世界的に有名です。現在はB&Gフーズ社が所有するブランドで、100%植物油由来のオールベジタブルショートニングとして長い歴史を持ちます。
また、植物油脂メーカーの植田製油株式会社やカネカフード株式会社(東京カネカフーズ)、横関油脂工業株式会社、日本油脂(NOF)なども業務用ショートニングを製造する主要メーカーとして挙げられ、リボン食品株式会社や丸和油脂株式会社なども日本マーガリン工業会の会員企業としてショートニングの製造に携わっています。
歴史・由来
ショートニングの歴史は、19世紀のアメリカにおけるラード(豚脂)の代用品探求に端を発します。当時、ラードは製菓・製パンに欠かせない油脂でしたが、価格の変動が激しく供給も不安定でした。そこで植物性油脂とラードを混合した「ラードコンパウンド(lard compound)」と呼ばれる代替品が1870年代頃から作られるようになり、これがショートニングの原型とされています。
ショートニングの歴史を語る上で欠かせない技術的転換点が、油脂の水素添加法(ハイドロジェネーション)の発明です。1901年、ドイツの化学者ヴィルヘルム・ノーマン(Wilhelm Normann)が、液体の植物油にニッケル触媒の存在下で水素を添加することで固体油脂に変換できることを実験で示しました。ノーマンは1902年にこの方法でドイツ特許(第141,029号)を取得し、続いて1903年にはイギリスでも特許を取得しています。この水素添加技術は、植物油脂の加工に革命をもたらし、後のショートニング産業の基盤となりました。
1911年、アメリカのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社が、水素添加した綿実油を原料とした世界初の植物油100%ショートニング「Crisco(クリスコ)」を発売しました。もともとP&G社はろうそくと石鹸の製造会社でしたが、1890年代に食肉加工業者によるラード・牛脂の価格独占に悩まされたことから原料の安定確保を模索し、1909年にノーマンの水素添加技術のアメリカ国内での使用権を獲得していました。クリスコは「ラードよりも純粋で清潔な調理用油脂」として大々的に売り出され、積極的なマーケティング活動もあいまって、アメリカの家庭に急速に普及しました。この成功がショートニングという製品カテゴリーを世界的に確立するきっかけとなったのです。
日本へは戦後の食文化の洋風化に伴い、製パン・製菓産業の発展とともにショートニングが普及していきました。日本マーガリン工業会の資料によれば、ショートニングはパンやビスケットなどの原料として使用した場合に「口あたりをよくし、もろさを与える」という意味の英語(shorten)から現在の名称が定着したとされています。
なお、「ショートケーキ」の名前の由来もショートニングに関連しています。もともとショートケーキは、ショートニングを入れて焼いたサクサクのビスケット生地(ショートブレッド的なもの)に生クリームとイチゴを挟んだアメリカ・イギリス由来の菓子でした。それが日本に伝わる過程でアレンジされ、ふわふわのスポンジ生地と生クリーム、イチゴを組み合わせた現在のスタイルへと変化したといわれています。
2000年代に入ると、トランス脂肪酸の健康リスクが世界的に注目されるようになりました。ショートニングの水素添加工程で副生するトランス脂肪酸が心臓疾患のリスクを高めるとの研究結果を受け、各国で規制や表示義務化が進みました。アメリカではFDA(食品医薬品局)が2015年に部分水素添加油脂(PHOs)を「一般的に安全と認められない(GRAS外)」と認定し、2018年に食品への使用を原則禁止しました。クリスコも2007年にトランス脂肪酸を1食分あたり1g未満に低減する処方変更を実施しています。日本ではトランス脂肪酸の表示義務や含有量の基準値は設けられていませんが、農林水産省の調査によれば、国内メーカーの技術改善により、ショートニング中のトランス脂肪酸量は2006年頃と比べて大幅に低減されており、現在では安全性に十分配慮された製品が主流となっています。
