材料の名前

マーガリンは、日本語では「マーガリン」と表記される。かつては「人造バター」と呼ばれていたが、1952年(昭和27年)に現在の名称に改められた。英語では「margarine」と綴り、発音は「マージャリン」に近い。ドイツ語でも同じ綴りで「マーガリネ」と読み、日本語の読み方は英語とドイツ語の折衷的な発音とされている。フランス語でも「margarine」と綴るが、発音は「マーガリン(マルガリーヌ)」に近い。スペイン語やポルトガル語圏では「margarina(マルガリーナ/マーガリーナ)」と呼ばれ、世界各国でほぼ共通した名称が用いられている。

「マーガリン」という名称の語源は、ギリシャ語で真珠を意味する「margarite(マルガリテ)」に由来する。1813年にフランスの化学者ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールが動物性脂肪の研究からマルガリン酸を発見した際、脂肪の粒子が真珠のように美しく輝いていたことからこの名が付けられた。製品としてのマーガリンが誕生した際にもこの名称が受け継がれ、現在に至っている。

なお、JAS規格(日本農林規格)では「マーガリン類」という分類のもと、油脂含有率80%以上のものを「マーガリン」、80%未満のものを「ファットスプレッド」と区分している。日本の家庭用として販売されている製品の多くは、実はファットスプレッドに分類されるものであり、厳密な意味でのマーガリンは主に業務用として流通している点も知っておきたい知識である。

特徴

マーガリンは、精製した食用油脂に粉乳や発酵乳、食塩、ビタミン類、乳化剤などを加えて乳化させ、練り合わせて冷やし固めた加工食品である。バターに似た外観と用途を持ちながら、原料構成や物性においていくつかの明確な違いがある。

まず、バターの主原料が牛乳(乳脂肪)であるのに対し、マーガリンの主原料は植物性油脂や動物性油脂である。植物油としては、大豆油、なたね油、コーン油、パーム油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油などが使用され、全体の60%強を植物油が占める。動物油としては魚油、豚脂、牛脂などが使われる場合もある。

物性面での大きな特徴は、バターよりもやわらかくなめらかな質感を持つことである。冷蔵庫から出してすぐでもパンに塗りやすく、生地への練り込みや混合がしやすいため、製菓・製パンの現場では扱いやすい材料として重宝されている。さらに、配合を変えることで硬さを自在に調整できるという機能性もバターにはないマーガリンの強みである。製菓用では食塩不使用タイプが用意されており、ケーキやクッキーの風味を損なうことなく使用できる。

風味面では、バターが持つ独特のコクや乳脂肪由来の深い香りに対し、マーガリンはあっさりとした軽い味わいが特徴である。ただし近年では、バターや乳脂肪を配合してバター風味を再現した製品も数多く登場しており、風味の差は縮まりつつある。

栄養面では、マーガリン100gあたり約717kcalで、脂肪含有量は約80.7gとされる。バターと比較すると飽和脂肪酸の含有量が低く、コレステロールも少ないのが一般的な傾向である。かつてはトランス脂肪酸の含有量の高さが健康上の懸念として指摘されていたが、日本のマーガリン工業会および各メーカーの継続的な低減努力により、現在市販されている製品のトランス脂肪酸含有量はバターの含有量を下回るレベルにまで低減されている。ミヨシ油脂の報告によれば、バター100gあたりのトランス脂肪酸が約1.9gであるのに対し、現在のマーガリンはそれよりも低い値を達成しているとのことである。

用途

お菓子作りにおけるマーガリンの用途は多岐にわたる。

製菓の現場でもっとも一般的な使い方は、クッキーやサブレなどの焼き菓子における油脂としての使用である。マーガリンは「ショートニング性」に優れており、小麦粉のグルテン形成を抑制して、サクサクとした軽い食感を生み出す。バターを使用した場合と比較して、より軽やかで歯切れのよい仕上がりになる傾向がある。

ケーキやマフィンなどのバッター系の生地においては、マーガリンの乳化性と練り込みやすさが活かされる。ケーキ用マーガリンは固まる温度が調整されており、ホイップしやすく空気を含みやすい特性を持つ。これにより、ふんわりとしたスポンジやしっとりとしたパウンドケーキを焼き上げることができる。食塩不使用タイプを選ぶことで、素材の風味を引き立てる繊細な味わいが実現する。

パイやクロワッサンのような折り込み生地では、業務用の硬めに調整されたシートタイプのマーガリンが使用される。バターほど温度管理にシビアでなく、作業性が高いことから、大量生産の現場では特に重用されている。

そのほか、バタークリームの代用としてマーガリンを使ったクリーム(マーガリンクリーム)も広く用いられている。アイスクリーム、チョコレート菓子、ドーナツの揚げ油脂としての利用など、お菓子作りのほぼあらゆる場面でマーガリンは活躍している。

家庭のお菓子作りでは、バターが手に入りにくい場合やコストを抑えたい場合の代替材料として親しまれている。バターとマーガリンを半々で使い分けることで、コクと軽さのバランスを取る工夫をするパティシエも少なくない。

主な原産国(原料油脂の産地)

マーガリンは加工食品であるため、「原産国」という概念は原料となる油脂の生産国に基づいて理解するのが適切である。

マーガリンの主原料であるパーム油の生産国は、インドネシアとマレーシアの2か国で世界のパーム油生産量の約80%を占めている。大豆油の主要生産国はアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、中国である。なたね油はカナダ、EU諸国(ドイツ、フランス)、中国が主要な産地となっている。コーン油はアメリカが世界最大の生産国であり、ひまわり油はロシア、ウクライナ、アルゼンチンが主要な産地である。

マーガリン製品そのものの生産量を国別に見ると、2020年時点でアメリカが約403万トンで世界第1位、パキスタンが約182万トンで第2位、ブラジルが約94万トンで第3位となっている。日本は約36万トンで世界第11位に位置しており、ロシア、ドイツ、ベルギーなどのヨーロッパ諸国も主要な生産国として名を連ねている。

選び方とポイント

お菓子作りに使用するマーガリンを選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがある。

第一に、用途に合ったタイプを選ぶことが肝要である。ケーキやクッキーなどの焼き菓子には「ケーキ用マーガリン」や「製菓用マーガリン」と表記された食塩不使用タイプを選ぶべきである。テーブル用として販売されている有塩マーガリンをそのまま製菓に使うと、塩味が仕上がりの風味に影響してしまう。折り込み生地にはシート状の業務用マーガリンが適しており、用途ごとに最適な硬さや融点の製品を選ぶことが仕上がりに直結する。

第二に、トランス脂肪酸の含有量を確認することである。現在の日本のマーガリンは大幅にトランス脂肪酸が低減されているが、製品ごとに含有量は異なる。パッケージの栄養成分表示や各メーカーのウェブサイトで確認し、可能な限り低い製品を選ぶとよい。「部分水素添加油脂不使用」と表記された製品は、トランス脂肪酸が特に低い傾向にある。

第三に、風味の好みと仕上がりのイメージに合った製品を選ぶことである。バターに近い風味を求めるなら「バター入りマーガリン」や「発酵バター入りマーガリン」を、あっさりした仕上がりにしたいなら植物油脂主体のスタンダードなマーガリンを選ぶとよい。コンパウンドマーガリン(乳脂肪含有タイプ)は、バターの風味とマーガリンの作業性を両立した製品として製菓のプロにも支持されている。

第四に、「マーガリン」と「ファットスプレッド」の違いを理解することも重要である。油脂含有率80%以上のマーガリンのほうが、より油脂としての機能性が高く、製菓に向いている。ファットスプレッドは水分量が多いため、焼き菓子に使用すると仕上がりの食感に影響が出る場合がある。

メジャーな製品とメーカー名

日本で流通しているマーガリンの主要メーカーと代表的な製品は以下の通りである。

雪印メグミルク
家庭用マーガリン市場の代表的なメーカーであり、「ネオソフト」シリーズは日本で最も知名度の高いマーガリンブランドの一つである。「ネオソフト」「ネオソフト コクのあるバター風味」などのラインナップがあり、トランス脂肪酸の低減にも積極的に取り組んでいる。

小岩井乳業「小岩井マーガリン 醗酵バター入り」
発酵バターの豊かな香りとマーガリンの塗りやすさを兼ね備えた人気商品であり、テーブル用として高い評価を得ている。

明治「コーンソフト」
天然コーン油を70%使用したマーガリンとして知られる。また業務用では「明治バターブレンドマーガリン」が製菓・製パン業界で広く使われている。

J-オイルミルズ「ラーマ バターの風味」
家庭用として販売するほか、業務用マーガリン「マイスター」シリーズを製菓・製パン向けに展開している。

マリンフード
業務用・家庭用の両方で存在感のあるメーカーで、「ホテルマーガリン」や調理用の「チーフマン」をはじめ、「芳醇植物性マーガリン」など多彩な製品を持つ。トランス脂肪酸の低減や、ヴィーガン対応の植物性マーガリンの開発にも注力している。

月島食品工業
業務用マーガリンの大手で、「パン屋さんのおいしいマーガリン」など製パン向けの製品から製菓用のシートマーガリンまで幅広いラインナップを展開している。

ミヨシ油脂
業務用油脂の総合メーカーとして、マーガリン、ショートニング、各種加工油脂を製造しており、製菓・製パン業界への油脂供給で大きなシェアを持つ。

そのほか、カネカ(旧鐘淵化学工業)、ADEKA、日清オイリオグループ、丸和油脂なども業務用マーガリンの主要メーカーとして知られている。丸和油脂の「ホテルマーガリン」は、ホテル朝食のパン向けマーガリンとして長年親しまれてきた製品である。

海外メーカーでは、ユニリーバが世界最大のマーガリンブランドを複数持ち、「ブルーバンド」「フローラ」などのブランドが世界各地で販売されている。

歴史・由来

マーガリンの歴史は、19世紀後半のフランスに始まる。1869年、フランス皇帝ナポレオン3世は、普仏戦争(プロイセンとの戦争)によるバターの深刻な不足に対応するため、安価なバターの代用品を懸賞付きで募集した。これに応じたフランス人化学者イポリット・メージュ=ムーリエが、上質な牛脂のやわらかい部分に牛乳を加えて冷やし固め、バターに似た食品を考案した。これが現在のマーガリンの原型であり、「オレオマーガリン(oleomargarine)」と名付けられた。後にこの名称は省略されて「マーガリン」と呼ばれるようになった。メージュ=ムーリエは数年間の研究を経てこの発明を完成させ、フランスおよびイギリスの特許を取得している。特許取得日である1872年10月24日は、後に「マーガリンの日」として記念されることとなった。

この発明はすぐにヨーロッパ各地に広がった。1871年にはオランダでマーガリンの工業的製造が始まり、後にユニリーバとなる企業群の礎が築かれた。20世紀に入ると、植物油に水素を添加して固形化する技術(硬化技術)が確立され、牛脂に頼らない「合成マーガリン」の製造が可能になった。これにより原料の選択肢が大幅に広がり、マーガリンは世界規模で生産・消費される食品へと成長した。

日本への導入は明治中期に遡る。明治20年頃(1887年頃)、日本在留の欧米人向けに輸入されたのが最初とされる。当時の日本人には米を主食とする食文化が根付いていたため、バターやマーガリンを食べる習慣は一般的ではなかったが、次第に試す人が増え、軍隊用の需要も生まれていった。1908年(明治41年)には、山口八十八氏が日本で初めてマーガリンの製造に着手した。その後、製造メーカーが徐々に増え、1935年(昭和10年)には「大日本人造バター工業組合」(現・日本マーガリン工業会)が設立された。設立当時は工場数16社、年間生産高1,400トンであった。

第二次世界大戦中は生産が一時衰退したが、戦後は食生活の洋風化とともに需要が急速に拡大した。品質の向上も進み、バターの代用品から独立した一つの食品へと地位を確立していった。1952年には「人造バター」から「マーガリン」へと正式に名称が改められ、消費者にも広く浸透していった。

2000年代以降は、トランス脂肪酸に対する健康上の懸念が世界的に高まり、マーガリン業界は大きな転機を迎えた。アメリカでは2018年に部分水素添加油脂の食品への使用が原則禁止となり、デンマークやスイスなどでもトランス脂肪酸の含有量規制が導入された。日本のマーガリンメーカーもこうした国際的な潮流に対応し、エステル交換や分別などの技術を活用して部分水素添加油脂を使わない製造法への切り替えを進めた。その結果、現在の日本のマーガリンは「低トランス脂肪酸食品」と呼べる水準にまで品質が向上している。

こうした歴史を経て、マーガリンはバターの代替品という出自を超え、独自の機能性と風味を持つ製菓・製パンに欠かせない油脂素材として、世界中の食品産業で確固たる地位を築いている。

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